専門店向けに中華麺を製造する新日本製麺(兵庫県福崎町)は、赤穂市でグランピング施設の開設を計画している。

新型コロナウイルス対策として国が募集中の「事業再構築補助金」を活用、2022年春のオープンを目指す。

製麺とアウトドアという全く無縁に見える本業と新事業の融合には、危機からの飛躍を期す中小企業のしたたかな戦略がある。

1974年創業の同社は播磨、但馬地域の中華料理店など約300軒に麺を販売している。

従業員は21人。10年前に創業者の父親から会社を継いだ社長の牛尾周平さん(43)は「裏方の商売なので、これまでは目立たないことだけを考えてきた」と笑う。

コロナ禍では取引先の休業が相次ぎ、売り上げは激減した。

製造業なので、飲食店向けの休業協力金は対象外。

コロナ前までは増収増益を続けてきただけに、牛尾社長は事業の将来性を徹底的に考えた。

「裏方に徹し、自らのブランド力を育んでこなかった」と欠点を冷静に分析。

自社商品を提供してすぐに反応を確かめられる場にもなることから、今後のブランド展開への足掛かりとしてグランピング施設の運営に行き着いた。

「変化の速い時代には現在地(本業)から離れた分野であるほど、線でつなぐことで新たな領域が広がる」と牛尾さん。

コロナ禍が落ち着き、インバウンド(訪日客)が回復するとの期待も込める。

設営済みのテントで豪華なキャンプを体験できるグランピング施設は、県内でも急速に増えている。

牛尾社長は赤穂市の御崎灯台近くで、鉄鋼業向け耐火れんが大手の品川リフラクトリーズ(旧川崎炉材)が保養所に使っていた建物(2階建て、延べ床面積2千平方メートル)を購入した。

瀬戸内海を望む景色を売りに、家族連れなどグループの利用を見込む。

グランピングを楽しむ高台には複数のドーム型テントを設置する。

保養所棟は改修し、休暇を楽しみながら仕事をする「ワーケーション」用の部屋やレストランとして使う。

事業費は1億円超を見込み、補助金やみなと銀行(神戸市中央区)などの融資で賄う。グランピングでは地元のカキを焼く海鮮バーベキューを目玉とし、自社で加工した食品も提供する。

複数の社員を専任スタッフとして配置する予定で、早ければ年内にも工事を始める。

牛尾さんが活用した事業再構築補助金は、国が本年度に約1兆1千億円の枠を設けて中小企業の業態転換や新分野への進出を後押しする。

1社当たりの上限は1億円と、他の補助金に比べて高額なのが特徴だ。

その分、綿密な事業計画や地域への波及効果が求められる。

牛尾社長は「新しい分野への挑戦は正直言って怖いが、コロナ禍を経験した企業がさらに成長するチャンスだと感じた。

赤穂という観光資源に恵まれた地域の活性化にもつながれば」と話している。

(出典:神戸新聞)